日記 2023

12月24日(日)〜12月30日(土)

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12.30.Sat

素敵な朝を迎えた。というのは真っ赤な嘘で、「名医先生」を読みながら悶々とした夜を過ごした後の朝。依然として、出すべき答えが見えない。何かが引っ掛かっている。しかし、今日は打ち合わせなのでそれまでに自分なりの答えは示さねばならない。午前中、とにかく「名医先生」を読み直しながら、悪戦苦闘する。

気持ちを切り替えて、トーストを焼きながら紅茶を啜る。バターをトーストに乗せて、バターが溶けてゆくのを眺める。そのうちに何かがひらめく。というか頭と体が芝居モードに入る。そしたら一気にイメージが湧いてきた。そういうことだ。人間の息遣いが何もかもの始まりなのだ。

チェーホフという人物の息遣いに倣えばいいだけだ。そこにやっと辿り着いた。辿り着いてみれば段々と風景が見えてくる。

夜はルーサイトに出向き、芝居をみる。これがとても素敵な作品だった。才能ある人が小振りだけど心温まる芝居を作っていた。これが、見たかったんだよなぁとつくづく感じた芝居だった。

12.29.Fri

朝から池袋で一仕事。クラフトジンのバーを営んでいるバーの方との会話が楽しい。異国でお店を運営する困難は並大抵ではないだろう。それをあの笑顔を絶やさずにやり続けていることの素晴らしさ。尊敬に値する。

気持ちがちょっとだけわさわさしていたので、ちゃんと夕食を作る。ひき肉を解凍しながら、玉ねぎとニンニクをみじん切りにして、オリーブオイルで炒め、塩胡椒したひき肉を混ぜ合わせ、少しだけコンソメを入れて味を調整し、茹で上げたパスタに和える。それだけだが、旨い。

手をかけた分だけ喜びがあることの素晴らしさ、当たり前だけど素晴らしい。芝居と一緒。とにかく近づこう。自分の目指す地点に近づこう。

12.28.Thu

起床して、あれやこれやとやるべきことをやり、そして色々、考える。考えた挙句、答えは出ないがこの世で生きていることへの感謝が優しく心の奥から湧き出てくる。舞台役者を志し、やれることをとにかくやり続け、今の地点に、いる。このことのささやかな誇りが、ある。

小林秀雄の素晴らしさはもちろん、野田秀樹、佐野元春、これらの存在に改めて感謝する。なんとこの世は素敵なんだろう。彼らのことを思うと、当たり前だが、やるべきことは無数にある。死ぬまで追いつくことができない存在なので、文字通り、ぶっ倒れるまで追い続けるだけだ。

12.27.Wed

何とか起床して、中野へ向かう。皮膚を診てもらうため。わさわさと急いでいたので、診察券を忘れる。相変わらずドジなもんだ。だが思い直してとにかく警察病院へと向かう。入ってみるとぎりぎり午前8時前。人影もまばら。これならほぼ初診扱いでもなんとか午前中に診てもらえる可能性があるかも。

手続きをして、皮膚科の前で待つ。午後になるかもしれないと言われていたが、覚悟して待ち始める。その間、昨日読了した「わたしは灰猫」の追加部分を再読する。密度の濃い涙が溢れてくる。自分との戦いを諦めないことの素晴らしさを噛み締める。涙が溢れる。

午前10時前に、僕の番号が呼ばれる。ささやかな奇跡が起きた。現在の症状を医師に伝える。手首、足首の湿疹。そして両瞼の湿疹を診てもらう。ついでに院部にも異常があったので、そこも当然診てもらう。乾燥した皮膚を採取されて、しばし席を外し、その後呼ばれる。結果として診断は特に変わったところはなく普通の湿疹だろうとのこと。ステロイド系の塗り薬を処方してもらい、とりあえず事は治る。こんな1日の始まり。

12.26.Tue

朝、走る。この目白界隈は、やはり素敵なところだ。それを噛み締める。そして池袋の街を歩く。歩きながら、舞台役者としての自分を噛み締める。言葉を発することに責任を持つことの意義。このことを肌で噛み締める。

「わたしと灰猫」を、今日も読み進める。最後に向かって感動の波が訪れる。背後からやってくる。この感覚は素敵だ。

そして、文庫化されるにあたって、書き足された登場人物たちの後日譚。青山さんにしか書けない内容でありながらも、普遍的な眼差しが僕の体を射抜く。咲音が最後に辿り着いたところ。生と死の端境にある、いやそこからしか生まれない希望。僕は、気付く。色々と気付く

12.25.Mon

朝は少しゆっくり目に起きる。お金のあれやこれやをやっつける。小林さんを少し読む。肌の状態が良くない。なんとかしなければならない。中野にある警察病院に色々と問い合わせる。明後日あたりに皮膚科を受診することに決める。

1日1日をしっかりと生きていきたい。やるべきことは決まっている。あとは進むだけ。「わたしと灰猫」を読み進める。以前読んだ時と印象がまるで違う。今までに読んだことのない小説だ。散文詩に近い感触がある。ところどころランボーを読んでいる感じがある。

夜空を眺める。人生なんぞ、一瞬の出来事なんだろう。この把握の濃密さ。だったら、生き抜くだけ。この日本のために。いや、日本語のために。

12.24.Sun

朝、ガバッと起きて、鎌倉へ向かう準備をする。とにかく行こう。海を少しでも見よう。電車に乗り込み、「わたしと灰猫 そして灰猫とわたし」を読む。青山さんが首相になる可能性が高くなってきたこの頃、僕は何をすべきか。

北鎌倉に着いた頃には晴れていた。久しぶりの東慶寺。境内に足を踏み入れると、以前とは全く違う精錬された空気が僕の体を包む。存在感が厚い空気。抵抗感さえある空気。ここの樹木、草花、土、は生き生きしている。そして売店に行き、写経の手続きをする。売店の反対側にある東屋へ一人向かう。扉を開けるとストーブで温められた空気が僕を励ます。そこには誰もいない。12組ほどの椅子と文机が置かれている。文机の上には藍色の、文机の横長に合わせた下敷き。それがとても美しい。僕はじっくりとその屋内に流れる清潔な雰囲気を確かめる。そして、とにかく「写経」なるものを始める。ひたすらに文字を書いてゆく。書いてゆく。

写経を終え、小林さんのお墓に詣でて、東慶寺を後にする。いつもの如く、源氏山を抜けて鎌倉へ出る。由比ヶ浜まで歩き海を眺める。駅へ戻る途中で左に折れて、商店街を歩く。ふと見つけたバーに立ち寄る。なかなか気さくな立ち飲みバーだ。イチローズモルトホワイトラベルをストレートで飲む。甘い。良い甘さの琥珀だ。見知らぬお客さんと四方山話。このバーは女性お二人で切り盛りしているようだ。小一時間、素敵な空間でお酒を楽しんだ後、鎌倉駅へと向かう。通りの名前はわからないが、初めて通る商店街。かなり「鎌倉」を意識したデコレーション。でも、悪くない。今度はこの通りも楽しもう。

そして、帰途につく。池袋に戻り、立教のツリーを眺めにいく。最高のクリスマスツリー。なんて素敵なんだろう。自宅稽古場に赴き、「Love Acutually」を通して観る。良き映画。で、さらにNHKで大谷翔平特集を観る。奇跡が、そこにある。この数年で最高のクリスマスイヴになる。

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