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このページでは、酒井が日々感じていることをコラム風に書き綴っていきたいと思っています。

#11・村上春樹の作品を好きな理由

村上春樹の小説を読み始めて、もう何年経つだろうか。確か僕が二十歳に頃に「ノルウェイの森」が出版されて、ベストセラーになり、その時期から彼の作品を手に取り始めたのだからかれこれ35年近くになる計算だ。この作品はもう何回読んだだろう。10回じゃ効かないはずだ。

僕の癖なのかもしれないが、同じ作家の同じ作品を何度も読み返す。小林秀雄の作品もそうだが、村上春樹の小説で、1回読んで以来読んでいない作品はない。それも全て5回以上は読んでいるかもしれない。何にそんなに惹かれているのだろうか。読みやすいというのはよく言われているようだが、一般の方々に内容をよく理解されているかといえばそうではないような気がする。僕が彼の作品に対して一番感じることは、彼の体の奥から、感覚の奥深いところから、言葉が紡ぎ出されているということだ。明確には証明できないけれど、そうとしか思えない言葉が連なり、文章になっていると思う。それは、彼がマラソンランナーでもあることに理由があるかもしれない。僕自身もマラソンをするので、感じることなのだが、身体感覚が日常では入ることのない領域に入りながら、正常な理性を働かせ続けることの忍耐力と感性。そしてこの領域から発せられる言葉。これに僕は惹かれているのだと思う。

このことは野田秀樹の戯曲にも言えるかもしれない。野田秀樹の頭脳は明晰だが、彼の戯曲のセリフは肉体的な感覚に満ち溢れていて、身体を極限まで使い尽くす感覚から言葉が紡ぎ出されている。

何はともあれ「1Q84」「海辺のカフカ」「ねじまき鳥クロニクル」「騎士団長殺し」、この4作品なんて毎年1回は読んでいる。そして常に新しい発見がある。なぜ飽きないのだろうか。好きな理由はわかるが、飽きない理由がわからない。心底、惚れてしまった。結局そういうことなのだろうか。小林秀雄、然り。野田秀樹、然り。佐野元春、然り。ただ僕の人生として、彼らから受け取ったものをどのように消化し、自分の言葉として発し、そしてどのように他の人々や後世に伝えていくのか。これが大事なことだと思っている。

「一度この世に生まれたからには、倫理の担い手として生きていかなければならない」確かこんな台詞を「1Q84」の登場人物タマルが言っていた記憶がある。そう、僕らは「倫理の担い手」なのだ。

2022.06.12

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